いつもと変らない外来。突然…1本の電話で状況が激変する。

「剥離の患者さんを、送りたいんだけど…」

受話器の向こうの声質も、異常な事態だと訴えかけてくる。

大事なのは、今日対応すべき状況なのか?…準緊急で大丈夫なのか?のトリアージ。また、直接患者様とご家族様に会って、厳しい現状と厳しいけど不必要な不安を払拭させて上げたい。わかりやすい説明で…、

剥離としては、1週間前から発症していて、黄斑剥離の状態。幸い、準緊急での対応可能と判断し、患者様も翌日の手術を希望。今日やるべき事は…術前検査とムンテラに絞られた。

一番ムンテラで…気をつけているのが、術後の体位制限の必要性。しっかり本人に必要性を理解してもらい、ご家族様には、サポートをお願いしないと…。一番神経を使い、時間を割くようにしている。もちろん…経験豊かな看護婦からもお話しをしてもらっている。

手術当日は…術前に描いておいた網膜剥離チャートと実際の術野を比べる作業。チャートが詳細で正解であるほど手術は容易となる。チャート上でイメージも出来上がっているため、そのまま実行するだけ。

予想外の時や、トラブル時には…いかに平静を保てるのか?が勝負の分かれ目だと分かっている。

予定どうり遂行して…翌日診察。患者様には、近くの提携ホテルに必ず1泊はしてもらっている。無駄に待合室で待たせるわけにはいかないので、受付と同時にリカバリー室へ誘導して、専用の椅子で伏臥位をとってもらっている。だいたいガスを充填してあるため…翌日はしっかり網膜は伸びている。原因裂孔の位置が復位成功の肝でもある。上方裂孔は治りやすい。

今回は、下方2/3の黄斑剥離の裂孔原性網膜剥離であった。原因裂孔は、耳側と上方の2ケ所にありました。初回のオペでしたが、83歳とご高齢で、術後の体位制限が懸念されました。シリコンオイルも頭をよぎりましかが…また抜去しないといけない事を考えて、患者様にはガス置換で頑張ってもらっています。

直近の診察で…ガスが30%になった状態でしたが、しかり復位していました。もうしばらくするとガスが完全に抜けて、房水に置き替わります。ガスが50%ぐらいになった時から、起坐位と鼻側臥位にしてもらい…体位制限を続けて頑張ってくれいるおかげです。

このまま、完全に復位が得られて、再剥離もない事を祈るのみです。術前と手術当日に、やれるべき事をしたら、後は診察していくだけ…。日毎ガスが減っていく…患者様は体位制限が緩和していく…術者は再剥離が生じてこないか?不安な気持ちが増大していく。

眼底を診察して、しっかり復位している網膜を診て喜びを分かち合う。再剥離があれば、丁寧に再説明をしてもう一度緊急手術。目をさらにして、術野を再確認し、やられるべき他の方法を模索する。その繰り返し…。

網膜剥離には、必ず原因裂孔があり…非復位は、穴の見落としのため。逆に必ず穴を見つけ、適切な処置をすれば必ず復位する。初回での復位率は、90%。どの術者も必ず一回で仕留めるように準備を怠らない。

網膜剥離の依頼は…そんな外科医の原点や先輩Dr から頂いた言葉を思い出させてくれる。

下之城眼科クリニック